今でもよくわからない。あれはいったい誰が?
もう10年以上も前のことです。
当時、私は登山にハマっていて、夏でも冬でも季節に関係なく、予定が合えばあちこちの山を登りに行っていました。
その日は、朝方は晴れて穏やかな天候だったのですが、昼過ぎから雪がチラつき始めて、夕方には本格的な吹雪となってしまいました。
日帰りのつもりだった我々のパーティは、冬用の支度はしていたものの下山を強行するには足りない装備も多かったので、非常用の小屋で占い師と夜が明けるのを待つこととしました。
吹雪の影響で視界が悪く、小屋に到着するのもひと苦労でしたが、何とか4人で求人小屋に到着することが出来ました。
4人?
我々のパーティは5人のハズです。
雪だらけのフェイスマスクを外し、それぞれの顔を確認すると、最後尾にいたA氏が見当たりません。
我々4人は慌てて小屋の外に出て、あたりを見渡しましたが雪と闇に覆われて、1メートルどころか数十センチ前も見ることは出来ません。
その時、我々4人は口には出しませんでしたが、A氏が絶望的であることは誰の胸にも明らかなことでした。
「なぜ振り返ってA氏を確認しなかったのか?すまない!」おそらく全員が同じ思いを抱いていたと思いますが、今は自分達4人が生き残ることが先決です。
疲労が溜まっていた上に、食糧もない状態だったので、そのまま眠ってしまってはそのまま意識が戻らない可能性も十分あります。
そこで我々4人は、小屋の4隅に立ち、順番に歩いて自分の前の隅に立っているメンバーの肩を叩いていくことにしました。
まず4隅に立つ。
そして、まず一人が目の前の角まで歩き、角に立っているメンバーの肩を叩く。
肩を叩かれたら自分の目の前の角まで歩き、その角に立っているメンバーの肩を叩く。
そして肩を叩かれたら、また歩いて角に立っているメンバーの肩を叩く。
という繰り返し。
それを朝まで続けることで、我々は眠らずに意識を保ち、無事に翌朝下山することができました。
山の麓まで下りたところで山岳救助隊に発見され安堵の息を付きましたが、A氏とはぐれてしまったことを山岳救助隊に告げ、A氏の捜索を依頼しました。
すると救助隊の隊員は、
「分かりました。Aさんは全力で捜索します。でも、あなたたちもよくあの吹雪で無事でしたね。どうやって一夜を過ごしたんですか?」と聞いてきました。
そこで我々4人は少しだけ自慢げに、肩を順番に叩き合って夜を過ごした話をしました。
すると救助隊の隊員の顔が、みるみる青ざめていきます。
「どうかしましたか?」と私が聞くと、
「4人では最初の一周で肩を叩けなくなりますよ・・・」と隊員。
そうです。
4人で4隅に立って、目の前のメンバーの肩を順番に叩いていくと、4人目のメンバーは誰の肩も叩くことは出来ないのです。
4人目のメンバーが叩いた肩。
やはりA氏だったのでしょうか?
それともやっぱり幽霊?
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