真夜中の募集校舎から放送されたわらべ歌

かれこれ10年前、私は学費を稼ぐために、新聞配達のアルバイトをしていました。
真っ暗闇の中をたった一人で、歩き回るのは怖がりの私にはキツイことでしたが、背に腹は代えられず、4年間その仕事を続けました。
其の4年間の中で、一度だけゾッとする体験をしました。

それは忘れもしない12月8日のことでした。

朝刊の配達は、配達を開始する前に、新聞の中に折り込み広告をセットすることから始まります。
ですから、一面に載っている記事などは自然と目に入ってくるものなのです。

その日の一面には真珠湾攻撃の記事が大々的に載っていました。
何十年前かの今日、多くの人の命が失われたのかと寝ぼけ眼にぼんやりと思ったのを覚えています。

広告のセットも終わり、いつも通り新聞の配達を開始しました。
そのころにはもう慣れたもので、暗闇が怖いというような感覚はほとんどなくなっていました。

今日もさっさと終わらせて少しでも早く帰って寝ようと、きびきびと仕事をしている時でした。

いつも通り小学校の向かい側にあるマンションへの配達分の部数を手に取り、エントランスに入ろうとしたとき、

ザーーーーーーーーーーー
という耳障りな音が聞こえてきました。
よく焼き芋屋さんなどが車中からスピーカーを使って呼び込みをするときにそのような音がするので、何か食べ物屋さんでも来るのかなと思いましたが、時間は夜中の3時前です。

マンションの購読者の部屋のポストへ新聞を入れながら、何の音だったんだろうなと思いながらも、深くは考えていませんでした。

そのマンションは6階建てで、いつもエスカレーターで最上階まで上がり、その後は求人情報を配達しながら階段で一階ずつ下へ降ります。

2回へ差し掛かった時、またあの

ザーーーーーーーーー
という音が聞こえてきました。

車だったら6階から2階に来る間に走り去っているだろうし、真夜中にこんな大きな音がするなんてなんか変だなと思いました。

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一階に降りるとますますその音は大きくなり、スピーカーから聞こえる独特なパチパチした音も混じるようになっていました。

全ての配達を終え、玄関から外へ出ると、一層

ザーーーーーーー
という音は大きくなり、おばあちゃんのような、幼い少女のようなか細くて高い声が混じって聞こえてきました。

音も大きかったなので何事かと周りを見回してみましたが、車が走っているわけでも、停まっているわけでもありませんでした。

左右をきょろきょろした後、真正面をみて私はその音がどこから聞こえてきていたのかを悟りました。

私の目の前には小学校がありました。
どうやらそこのスピーカーからこの声が聞こえているのです。

あまりのことに足がすくんでしまい、少しの間底に立っていましたが、その間もずっとその声は聞こえていました。

声はか細いのですが、私の耳ものとには大きく聞こえ、何を言っているのかは分かりませんでしたが、動揺のようなものを唄っているのは分かりました。

ハッとして我に返った私は、すぐ近くが勤め先の販売店だったので、直行で帰りました。
仲の良い先輩がちょうど、積みきれなかった分を取りに戻ってきていたので、あの音を聞いたか聞いてみましたが、何も聞こえなかったと言われました。

販売店までは100メートルほどの距離でしたし、あれだけ大きな音で鳴っていれば聞こえないはずはないのですが。
10年たった今でも、あのか細いのに大きな不思議な声は耳の奥で忘れずに再生することができます。